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他方、これらの構築物はその物理的な形状に由来するいくつかの固有振動数を持っていますが、腐食が発生するとその進行に伴って固有振動数が変化します。実際、支柱に外部から力を加えて振動を励起し、その時の振動数によって対象構造物の劣化を推定する方法が提案されています。3)しかし、大型の機器を用いた構造物の励振は、支柱一本当たりの検査コストが高くなってしまうことから多数の支柱の検査を行うことは現実的ではありません。このような問題に対して今回開発した技術では、外部から人為的な力を構造物に与えるのではなく、主に風による自然の力によって発生する構造物の振動を、構造物に設置したデータロガーに長期的に観測、装置内のメモリーに記録します。蓄えられたデータは、短時間に非接触で回収きるので、支柱一本当たりの検査時間は非常に短時間で済みます。4) データロガー
図1に今回開発したデータロガーを示します。この装置には3軸の振動センサが搭載されており、電池駆動で長期間支柱の振動を記録します。記録されたデータは無線によって抽出することができます。センサーデータの取得並びに外部との無線通信は電力消費が大きいことから、ハイバネーション(冬眠)モードと呼ばれる低消費電力モードを装備、機器を設置後最長8年程度の運用が可能な仕様となっています。
データの分析データロガーに蓄積された振動データは、例えば一年に一回程度の検査員によるパトロール時にデータをダウンロードします。通信はZigBee方式を採用、10〜100m程度の距離での通信が可能です。ダウンロードしたデータは専用の分析ソフトウエアによって解析が可能で、支柱の固有周波数の変化を分析します。
データの分析例
道路で実際に使われている鋼製支柱に疑似的に腐食を作成(円周の1/4に0,25,50,75%の減肉)、前述のデータロガーを設置して約半年わたってデータを収集しました。図4に実験の状況と分析結果を示します。今回の実験では、構造物の振動としては比較的高い周波数である9Hz帯の固有振動において、減肉量と強い相関を持つ周波数変化が観察されました。実験で使用した支柱全周の1/4に減肉を形成しただけであることから直ちに支柱が倒壊するようなレベルではなかったものの、固有振動数には明らかな変化がみられており、実用性の高い分析手法になるのではないかと期待しています。 今後の展開すでに腐食の有無のはっきりした支柱サンプルに対して本方法を適用、固有振動数の違いなどを評価、多くの経年鋼製支柱を有する自治体などとも連携して早期の実用化を図りたいと考えています。また開発したデータロガーの適用範囲は鋼製支柱に限定されるものはないことから、たとえば洋上風力発電における発電機など劣化と機械的な振動が関係する構造物の劣化診断にも適用を広げていきたいと考えています。
参考文献1)スマート保安官民協議会:スマート保安推進のための基本方針, 2020年6月29日
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