企業で技術開発をもう40年もやっている。うまくいったものもあればうまくいかなかったものもある、というかほとんどはうまくいかなかった。(笑) でもまあ、少しは成果らしきものも出してきたつもりではある。
最近の若い研究者と話をすると、割とあっさりしているなあと思うことがある。どこからか見つけてきたシーズ技術と社内のニーズをマッチングして、いわゆるPoC(コンセプト実証)というのをやる。それでうまくいけばさらに先に進むし、だめならこの話は終わりで次のネタを探す。そんな方法論がどこの企業でも行われているらしい。言ってしまえば、あんまり自分テーマという感じを彼らはもっていない気がするのである。 以前だと、何かテーマを見つけて研究を始めると、それは自分のテーマだからそう簡単にあきらめたりはしなかった。だめでも何度も実験をやって何とか答えをひねりだそうともがく。これといった結果が出ないまま何年も時が過ぎてしまうこともあるだろう。まあ、昔は高度経済成長のいい時代だったから、それでも「彼はなかなか粘り強く仕事をしているから昇進させてあげよう。」なんてことがあったかもしれない。でも今やそんな悠長なことをしている時間はない。とっととめぼしいネタを見つけて成果を上げないと異動になってしまうのだから。結果、現場のデータを適当にぶち込むとそれなりの結果を出してくれるAIなどというものが重宝される時代になってしまった。(言いすぎかな)
科学も経済も行き詰まりを見せている現代において、そんな単純なやり方では問題は解決しないと文化人類学者の辻信一氏は言っている。その中でunlearnという言葉を取り上げているのが気になったので紹介したいと思う。この言葉は学ばないということではなくて、哲学者の鶴見俊輔によれば、「学びほぐす」というような意味だという。何かを学んだら、それをほぐして、ほどいて、また学び直すことが大事だというのである。私も、直線的に頭の中にどんどん知識と情報を詰め込んでも、それだけでは、そこからイノベーションはきっと生まれないんだろうと思う。ネチネチ同じところに立ち止まって、ぐりぐりこねくり回す。うーん、もうだめかあっと思ったときに、ぽろっと解決へのヒントが生まれる、そんな感じだ。そういえば大阪大学の元学長の鷲田清一氏も似たようなことを言っていたなあと思いだした。
参考文献:加藤哲彦編 『「問う」を学ぶ 答えなき時代の学問』 2021、トイビト
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