企業の競争力は技術力であり、そのためには自社の研究開発をしっかり行うことが大事だとよく言われる。他方で、ものすごい勢いで技術が進歩する昨今、どんな研究をすればビジネスにおいて有利なポジションに立てるかの判断はすごく難しいのも事実だろう。例えばいくらAIが注目されているからと言って、今から自社でAIの基礎研究を行ってもとても他社に追い付けるとも思えないし、太陽電池が注目を集めているからと言って、太陽電池の研究はメーカーに任せておけばいい話のような気もする。
とは言っても誰も知らないテーマの研究開発について周りの理解を得るのは難しいに違いない。誰も知らない(理解できない)テーマの上申を承認する上司はそうはいないだろうから、結局どうなるかというと、皆が理解できそうな旬のテーマを外部のコンサル会社や大手のメーカーに大枚を支払って「研究」することになる。その道のプロの人たちと一緒にやっている研究開発だから、そんなにおかしなことにはならず、それなりの結果が出てめでたしめでたしということになるかもしれない。試作機が無事動いたことをアピールして新聞発表でもすれば大成功ということになる。
でも、こういう開発ってほとんど何も新しい成果を会社にもたらすことはないと言ったら言い過ぎだろうか。なぜかというと、ちゃんと成功裏に開発が終了しないといけないから、誰もやったことなんかやっちゃあまずいのである。そんなテーマに何億円もの大金はたいて、もしうまくいかなかったらそれこそ責任問題になる。だから、研究テーマは予定調和のいい感じの結果しか生まないのだが、そこには残念ながら目新しい話はない。そういう成果は技術の旬が過ぎれば忘れられてしまう運命にあるのである。
じゃあ、誰もやったことのない斬新なテーマにチャレンジすればいいのだけれど、そういうテーマは間違いなく失敗する。だって、これまでに誰もやったことが無いのだから仕方がない。ここに研究開発のジレンマがあるのだろう。誰でもできることをやってもだめだけど、誰もうまくいかないことをやってもだめなのである。ああ、難しい。
そんな微妙な立ち位置に何十年も身を置いてきた者としてつくづく思うことは、失敗したテーマを上手に終わることが大切な気がするがどうだろうか。つまり、やった研究のうまくいったところまでをしっかり成果としてまとめること、やってうまくいかなかったことはなんであったかを整理すること、ここがすごく大事なんだと思う。うまくいかないことをしっかり知っていることは、ビジネスの上でもきっと強い武器になるに違いない。そのことを成果と考えれば、失敗するプロジェクトなどないともいえる。もし、上手くいかなかった理由が、購入した部品の性能が不足していたり、市場のニーズがまだ成熟していないなどであった時、ちゃんと成果を公表しておけば、時が来ればその成果が生きることもあるかもしれない。失敗したと言ってゴミ箱に成果を捨てたら何も起こりようがない。特許をちゃんと出しておくことも大切だろう。
研究を終えること、研究開発の一番大切なところかもしれない。だって十中八九研究は失敗するんだから。
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