デジタルではなくてフィルムカメラで写真を撮っている。いつ面白い対象に出会うかわからないので、いつもカバンの中にはISO400のモノクロフィルムの入ったコンパクトカメラが入っている。レストランの人に友人との写真を撮ってもらうことも多いが、最近の若い人はフィルムカメラなんか見たことがないから、スクリーンの付いていないカメラに戸惑うことも多い。まあ、それも宴会の余興だと思えば楽しい一コマにはなる。
さて、デジタルであれアナログであれ、写真を撮るときには露出の設定をしなければならない。もちろん、最近のスマホやカメラは賢いので、そんな設定を気にしなくても周りの明るさを感知して自動的に設定してくれるのだが、もう少しそれを詳しく知ると撮る写真にいろいろと味付けをすることができるようになる。つまり、カメラの設定には絞りとシャッタースピードというのがあり、この2つの設定をどう組み合わせるかによって写真はいろいろ変わってくるのである。
そういう変化球を投げたい写真上級者(?)は、絞りを自分の思うように設定して、それに対応するシャッタースピードはカメラが勝手に決める「絞り優先オート」や、逆にシャッタースピードを任意にして、絞りを自動的に決める「シャッタースピード優先オート」なるモードを使って写真を撮ることになる。そして、さらにカメラが決めた設定をちょっと明るめに補正したり、逆に暗めに補正したりする「露出補正」というのが付いていることが多い。これらの設定をいろいろ変えてカメラマンは写真を撮るのである。
そんな中YouTubeの写真講座を見ていたら、面白いことを勧めているのに出会った。写真家の渡部さとる氏のチャンネルなんだけど、カメラの設定を上に書いてあるやり方の真逆でやってみることを勧めている。つまり、カメラを向けた場所の明るさによってカメラの設定を決めるのではなく、カメラに設定した露出の設定にあう場所を探して写真を撮るというのである。たとえば、窓際で外から光が入ってきて、だんだん暗くなるような場所というのはポートレートをとるのにすごく向いているのだという。で、そういうときの露出は絞りがF5.6でシャッタースピードが60分の一秒になるのだというのだ。彼はこの光と影の境目をフェルメールラインと名付けている。そう、あの天才画家フェルメールが好んで使った光のセッティングなのだ。
この撮り方では、カメラは自動になっていないので、あまり明るいところとか暗いところにもって行って写真を撮ると、いい感じには映らない。カメラマン自身でフェルメールラインを探して、そこに立ってもらって写真を撮るという作業をしなければならないのである。この方法を実際に試してみると、今まで以上に光の具合を気にするようになった。写真を撮ろうとしている被写体が何かということもあるけど、それ以上に光の当たり方に注意を払うようになる。これは面白いなあと思って写真を撮り始めた。今度の現像が楽しみである。 ビジネスにおいて市場の声に耳を傾けることが大切だとよく言われる。それは一面間違いない。自らの製品やサービスに足りないところがあれば、素早くそれに対応することが大切だという。なんかそれってオートモードの写真撮影のような気がしてきたのだ。オートモードで撮った写真は、センサーによって適当な光のようになるように調整されているから、それなりの写真が毎回撮れる。それはそれでいいんだけど、みんな「それなり」の写真にしかならない。それに対してフェルメールラインを求める露出固定の写真は、どこでもうまくいくわけではないけど、うまい具合にはまると時にすごい写真を生んでくれる。何というか自分の土俵に引きずりこんで仕事をやるような感じがしないだろうか。そしてそういうやり方をすると、周りの見え方が大きく変わったということに注目したい。世界は平板のようにそこに存在しているのではなく、いろんな光が刻一刻と角度や強度を変えてあたって世界を照らし出しているように、ビジネスの世界だって見方によって大きく異なって見えるのではないかと思えてきた。
参考:渡部さとる、2Bチャンネル 、窓辺の光は"ISO400 1/60 F5.6"
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