厳しい世の中を生き残っていくためには、他よりも優れた技能や知識を身につけて競争に打ち勝っていかなければいけない。それは個人だけではなく会社においても同様なことが言える。競争力のある製品やサービスを低廉かつスピーディに提供し続けなければ市場競争に勝ち残れない。企業の中に素人のような仕事をしている人がいたのでは到底その目的は達成できないから、それぞれの分野の専門家が高度な分業体制の中で効率的に業務を遂行する。時に自社に専門性の高い分野の人材がいなければ、ヘッドハンティングによってそうした人材を確保することもしばしば行われるようになった。会社にとって、そうした人材を一から育てていく時間も余裕もないのだから仕方がない。
こういう生存競争の話になると必ず出てくるのが、ダーウィンの進化論である。首のより長いキリンが餌を有利に得られることによって生存確率が高まり、結果そうした性質をもつ個体がだんだん勢力を広げ、進化を遂げていくという理論だ。こういう生存競争に対して、異論を唱えた科学者がいたという。ピョートル・クロポトキンがその人だ。彼は、生物進化おける相互扶助の重要性を強調した。クロポトキンによれば、「適者」とは、競争で相手を蹴落とすために力や賢さに長けたものではなく、「強かろうが弱かろうが、コミュニティ全体のために力を合わせることを学び取った者たちのこと」だというのである。そしてそれは、「一人ひとりの幸せは、他の者の幸せに密接に依存しているという無意識の認識」であり、そのことこそが進化の本質なのだという。実はダーウィンも、進化論の中で生き物同士の相互依存については指摘していたのだが、そのことは後のダーウィン論からははぎ落とされてしまったのだというから、クロポトキンが必ずしもダーウィンに異論を唱えたということでもないらしい。
世の中を、勝った人と負けた人、高い技能を持った人と持たない人、援助をする人と受ける人、のような二項対立で物事をとらえることは、いわば生存競争に打ち勝つ優勝劣敗の構図と同じである。 そして、そうした構図はいずれ争いのもととなっていくとは言えないか。また高度な分業体制の企業においても、専門チームとチームの隙間にあるような微妙な関係の調整が重要であるように、それぞれが相互依存していることをもっと認識すべきではないかと思うのだ。
参考文献:佐藤仁 『争わない社会「開かれた依存関係」をつくる』 2023、NHKブックス
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