4月に社会人になった次男の新人教育の中に、どのようにして議事録を書くかという研修があったらしい。 もちろん会議が開催された日付や出席者、打ち合わせの題目や、決まった事柄などをわかりやすく書くことなどを学んだそうで、まあ、それは必要最小限の項目なので特にそこに問題はない。でも議事録というと、それだけではなく、会議の内容についてももう少し詳細な記述をするのが普通である。その辺をどのように記載するのがいいかということになると、ちょっとよくわからなくなる。
ところで、生物の見事なスケッチを描く沖縄大学の盛口満教授によれば、スケッチを描くときの一番のコツは「ウソをつくこと」なのだという。氏によると、さらにウソつき三原則なるものまであって、
なのだという。なぜスケッチをするにはウソをつかなければいけないかというと、実際の生物の細かいディテールをすべて描いていたのでは、いくら時間があってもたりないのだからというのだ。昆虫の表面の細かな光沢や微細な毛など、すべて描いていたのではとても描き切るのは無理であり、倍率をあげて観察すれば、さらに新たな形状が見えてくるに違いない。どこかで妥協して(ウソをついて)描くしか仕方がないというのである。
上手なスケッチの描き方って、上手い議事録の書き方にも似ていると思うだがどうだろうか。つまり、会議の中での発言の全てを詳細に書き取ることは、できないことはないにしても膨大な時間がかかるし、だらだらと会話を再現しても、やたらと長い議事録になり、かえってポイントがぼけて何が何だかわからなくなるに違いない。発言者の言ったことを正確には再現していないかもしれないけど、上手に発言の要旨をまとめて議事録に残すことが大切なのだろうと思う。
盛口先生は、ウソをつくためには「ホンモノをよくみる」ことが大切とも言っている。どんな視点からどのように生物を見つめ、それをもとに上手にウソをついてスケッチにする。ここでいうウソはありもしない事柄や形状をスケッチの中に入れるということではない。ホンモノをしっかり見た後、どうしても描き切れない部分にウソをつくのである。そして一旦ウソをついたら、ブレずにそれを最後までウソをつきとおす。そんな感じで議事録を書けば、新人とは思えないような立派な議事録が書けるんじゃないだろうか。
盛口満『昆虫の描き方・自然観察の技法U』 2014、東京大学出版会
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