太陽や月の活動や温湿度や気圧などいろんな自然のパラメータと、精神的な疾病を含む様々な病気や行動の因果関係を調べている先生のお話を伺う機会があった。とにかくデータはたくさんあり、インターネットを通じてそれらを容易に集めることができるようになったわけで、いろいろな仮説に基づいて両者の関係を調べているという。中には統計的に有意な水準でつながりが示唆されるケースもあるという。
ただ、こういう研究で何か疾病とその原因について報告すると、必ずその科学的根拠が問われる。例えば「満月になると自殺が増える(実際、女性にその傾向があるらしい。)」というようなことが分かったとすると、潮汐力が人の精神に影響するのかというようなことが問われることになるのだが、あるかもしれないけど実際に計測によってその真偽を確かめるのはむずかしいので、科学的にはわかりませんねということになるのがほとんどかもしれない。
個人的にはどうもビッグデータというのは、そのデータの処理の仕方に恣意的な側面が除去できないので、あまり好きではなかった。つまり分析の結果が思うようなものでないと、分析の過程でいろんなパラメータをいじることによって、まあどのような結果でも作り出せる。客観的な結果などあるんだろうかとさえ思っていた。
ただ、今回のお話を伺ってその思いがちょっと変わった。とにかくデータ分析の結果によって何か疾病を軽減する結果が得られたとするとき、その科学的な因果関係についてはとやかく言わない。だからそれは科学とは言えないかもしれないのだけれど、その結果を前向きにとらえて活用するという立場である。それは漢方にもつながるところがあるように思う。漢方というのは、西洋医学(つまり科学)的な因果関係によって証明されているものではない。中国4000年の歴史によって裏付けられたノウハウの塊なのであり、ビッグデータはその4000年の歴史をぐっと圧縮するツールとして使えるのではないかと思い至ったのだ。
京都大学発のこの研究、研究の成果をアプリにして世の中に提供していくという。分析しっぱなしではなく、本当にその情報によって有益な結果が得られたかどうかについてのPDCAを回すことが大切なんだと思う。漢方においても多くの薬が処方され、その中で実際に効能があるものだけが今に伝えられているように、ビッグデータから得られた知恵も確認作業が必須なのだと思う。
京大異分野融合セミナー「気象要因、宇宙環境要因、大気汚染要因を用いた疾患発症・増悪予測モデルの開発」 京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構 特定准教授 西村勉
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