ウイルスと言えばもちろん皆コロナを思い出す。もう3年も居座って皆たいへんな目にあっている。こんな禍をもたらすウイルスなんてとっとといなくなって欲しいと皆思っているのは間違いないのだが、そもそもウイルスって何だろう。なんでも自分では複製できないから生物ではないらしい。かといってただのモノかというと、人間をはじめとする生物に入り込んで複製を繰り返すらしく、生物とモノの中間みたいに言われることも多い。門外漢の私にはなんか不思議な存在である。
そんなことを思っていた時に福岡伸一先生の「動的平衡3」という本の中に、ウイルスとは何かという説明を見つけた。それによると、なんでもウイルスは自然発生的に原始的なものから進化したものではなく、高等生物が登場したあと、その副次的な派生物として初めて現れたのだという。高等生物の遺伝子の断片がちぎれ、細胞膜の破片に包まれて、宿主細胞から飛び出したものがウイルスなのだという。その証拠にウイルス遺伝子の中には、高等生物のゲノム遺伝子と類似の配列が見出されるのだという。ちょっとびっくりである。
もともと自分の中から飛び出していった放蕩息子のようなウイルスだから、外からやってくると生物はウイルスを容易に受け入れてしまうのだそうだ。コロナウイルスしかりである。でも、コロナのように人間に悪さばかりしているのであれば、(実はコロナが毒素を出すわけではなく、ウイルス侵入に対する生体の反応によって症状がでるらしい。)長い進化の過程で生物の方で完全なウイルス防御システムが作られてもいいはずなのに、未だにそうはなっていないのはなぜか。それはウイルスが生物の進化に一役買っているからだという。親から子へと受け継がれる遺伝情報を進化の縦の糸とすれば、ウイルス感染によって引き起こされる進化は横の糸なのだという。つまりウイルスが持ち込んだ遺伝子が偶然に生物に取り込まれることによって進化が引き起こされるというのである。ここに紹介したことが本当なら、コロナも含めてウイルスの存在には意味があるのである。徹底的に封じ込めてゼロにしようとしても多分そうはいかない。ウイルスは我々の一部でもあるのだから。
物事の意味というのは例外なくそうした相矛盾する事柄が絡み合っている気がしてならない。逆を言えばそういう矛盾する側面が見えてくると、目の前に起こっていることの意味も見えてくるということなのかもしれない。世の中はDX化とかAIとかの先端技術の導入で大騒ぎになっているけど、そのメリットの他の別の側面にも思いを巡らせてみることもあながち無駄なことではないと思う。そういう議論の先に今という時代が見えてくるんじゃないかな。
福岡 伸一 『新版 動的平衡3』 2023,小学館新書
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