最近、大勢の方の前でお話をする機会が増えた。これまでのいろんな開発の経験やコラムでの議論などを、100分くらいの講演にまとめたコンテンツがあるのだ。同じような内容で、もう何十回も話をしているので、それほど緊張することはない。聴衆の興味の様子を見ながら少しずつバリエーションを加えて話をする。自分で言うのもなんだけど、概して講演は好評で、繰り返し講演を依頼されることもある。
先日は人事部のお手伝いで大学の学生さん60名ほどに講演をした。文系の学部の学生だったので、もしかすると技術的な内容はよくわからなかったのかもしれないが、まあ雰囲気で聞いてもらえればよい。大企業とスタートアップ企業の違いなどについては、就職先を考えなればいけない学生にとっては新鮮に映ったようだ。講演の後には学生からのいくつかの質問も受けた。
講演の最後に近いところに工学部で学ぶフィードバックと、営業の見積もり作成の業務というのが実はよく似ているという話をした。他の講演でもこの部分が面白かったと聞くことがよくあるのだが、この日もこの点について質問があった。ちょっとおとなしい感じの男子学生から、
「どのようにしてその二つの方法論を身に着けたのですか?」
という質問だった。研究者としてキャリアを積む中で、これまでいろんな実験をしてきた。実験の結果がでると、それをよく見て実験条件を調整する。何回かそのプロセスを繰り返すことによってゴールに近づいていく、まあ技術者にとっては当たり前のプロセスだ。そして、そのプロセスの中の「実験サンプル」の部分を「お客様」に置き換えれば、営業活動というのも実は科学実験とおなじフィードバックプロセスであるというお話である。PDCAと呼んでもよい。そういわれてみると、この類似性に気付いたのはいつだったのだろう?(いい質問だね。)
もともと研究所での研究業務をずっとやっていて、自ら開発した空港向けのセキュリティ機器の販売を機に現在のエンジニアリング会社に異動した。エンジニアリング会社での仕事では、モノを相手にした実験を自らやることは少なくなって、お客様との仕様のすり合わせや、クレームの対応などの人的な部分の仕事が増えた。そういう仕事の中で上記のようなことを学んだような気がする。
いや、新たな営業の方法論は学んだものではなかった。営業の面倒くさい人間関係の中でいろいろもがいているうちに、ふとその仕事は科学実験と同じであると気が付いたのである。いわば営業の仕事の仕方の答えは、私の心の中に実はずっと前から埋まっていたのだが、そのことに気が付かなかっただけのことだったのだ。
何かを学ぶこと、それは教科書を読んだり、先輩のやり方を盗んだり、といろんなやり方があることになっている。でも、今振り返ってみると、「学ぶこと」は実は自分の中で眠っているスキルやコンセプトを見つけるプロセスのような気がしてきた。ずっと前からそれは自分の中で眠っているのだ。どうやったら眠っているスキルを起こすことができるのかは、まだよくわからない。でも、いろんな能力が自分中に封印されているのだとしたら、何とかそれを掘り起こしてみたいと思う。そんなに多くの時間は残されていないかもしれないけど、自分の心の中の探検をもう少しやってみたいと思うのだ。
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