いまどきの研究について

 
  Vol.241
2020年11月20日
 
     
     

立場上いろんな研究のプロポーサルを評価することがある。会社の貴重な資金を使って研究を行うのだから、しっかりとその研究の価値を見極める必要がある。私たちの会社には研究所というような専門の組織はないので、調査研究を外部の機関に委託して行うことも多い。いわゆるシンクタンクと呼ばれる会社に大枚を払って依頼することになる。もちろん優秀な研究員を誇るシンクタンクに調査を依頼すれば素晴らしい報告をしてくれることもあるだろう。しかし、いくつもの委託調査のプロポーザルを審査していると妙なことに気が付いた。

「その委託調査の答えってもうわかってるんじゃないの?」

と思えることがあるのである。もうわかっていることを調査しても仕方がないのだが、提案する方はいたって真面目である。自分たちの知らないことがまだあるかもしれないから、調査をしてみる価値はあると言ってきかない。まあ、可能性としてはそういうこともあるかもしれないけどね。

なぜわかっていることを調査研究するのだろうかと考えてみた。その理由はたぶん簡単なことだと思う。つまり、自分のわからないことを問うことはとても難しいということに尽きるだと思う。自分のわからないことは、いわば絵画の背景のようなものだ。前景に描かれているメインの建物や人についてそれを言葉にすることは比較的容易にできるが、背景は前景の残りの部分であり、それを言葉にすることは簡単ではないだろう。雑多な景色や、たくさんの無名の人たちとかそんなものである。わかっていないことの調査というのは、絵の背景の部分に注意を向けることだと言ったらご理解いただけるだろうか。意味のない事柄に意味を見出す作業といってもよいかもしれない。これは案外難しいチャレンジなのだ。

個人的にはあまりシンクタンクのお世話になったことはないのだが、彼らはプロでついでに賢い。お金をいただくためにお客様の満足するようなレポートを書かなければいけないから、打ち合わせの時にクライアントの言動に集中する。そして、彼らはクライアントが欲しているものを抜群の嗅覚で嗅ぎ出し、そのストーリーに沿って報告書を書き上げる。クライアントは、これぞ私のイメージしていた内容だということで大喜びするということになる。でも、実はそれは依頼者の頭の中にすでにあった事柄を書き出しただけに過ぎないのだけれど、そのことにクライアントは気がつかない。

最近オープンイノベーションなる手法が大流行で、うまくニーズとシーズがマッチングできるとPoC(Proof of Concept)というステップで、その技術が実際に現場でうまくいくかどうかをトライする。とてもロジカルな研究開発の進め方のように見える。でも、それって上記のわかっていることを調査することととても良く似ているような気がして仕方がない。想定された現場の状況に、想定された技術の価値が適用できるかどうかを確認する。うまくいけばいいけど、だめならそれでプロジェクトは終わりである。そのプロセスの中で想定外の事柄が起こってはいけない。もちろん、業務改善としてオープンイノベーション的なアプローチはありなのだと思うけど、そこに何か今までになかった新たなことが生まれるとは考えにくい。もし、他社に差をつけるための新たな何かを探したいのであれば、背景に注目してみることが大切だと思う。研究所と名の付くところがオープンイノベーションなんか始めたら自滅の道を歩むんじゃないかと思うんだけど、ちょっと言い過ぎだろうかね。





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