狭まる視界

 
  Vol.239
2020年8月14日
 
     
     

会社の電話としてずっとガラ携を使っていたが、いろいろ不都合もありついにスマホに変更した。使ってみるとやはり便利ではある。どこにいても会社のオフィスにいるのと同じようにメールや予定を確認できる。もう以前には戻れない。電池が結構すぐなくなるのはちょっと面倒くさいけど。

自宅にいてもWi-Fiの電波が飛んでいるのでパソコンやタブレットがいつもネットに繋がっている。昔は夜になると食事しながらみんなで巨人戦をテレビで見たものだけれども(古い!)、二人いる息子はもうほとんどテレビを見ない。自分の部屋でアニメだの大リーグだのといった好きなコンテンツを見ているんだろう。まあそれも時代の流れである。人それぞれ趣味も違うのだから、興味のない番組を一緒にに見るよりも自分の興味のあるものだけを見た方がいいに決まっている。

どのような仕掛けになっているかは知らないが、ネットではこれまでの検索や視聴履歴によって次に出てくるページや画面の中に出てくる広告などが最適化されているらしい。確かにちょっと前に双眼鏡をネットで買ったのだが、画面の広告にやたらと双眼鏡が出てくるようになった。まあ、もう購入したんだから、さらに双眼鏡の広告をこれでもかと出されても仕方がないような気もするが、少なくとも私が双眼鏡に興味があることは間違いない。動画投稿サイトなどでも同じだ。これまでに見たコンテンツと同じような内容の動画がこれでもかこれでもかと表示される。まあ、興味があってその動画を見ているんだから、その内容に関連する動画をお勧めするのは理にかなっているといえばその通りだろう。

この手の話というのは、視聴する個人が何らかの興味を持っていて、その意思に従ってインターネットを活用しているということになっている。最初にあるのは個人の意思であって、コンピュータが勝手にこれを見なさいと無理強いしている訳ではない。それはそうなのだけれど、自分も含めてそんなに強い意志を持ってネット検索をしているかというと案外そうでもないことに気が付く。ちょっと気になった事柄を検索エンジンに入力するとか、他の人が持っていた商品をいいなあと思ってアマゾンで検索して見るとか、大体最初はそんな程度ではないだろうか。でも一度そういう情報を入力すると、待ってましたとばかりに関連する情報がどんどん送り付けられるようになる。見ている方は、その送られてきた情報をもとにさらに検索を続けるので、「それならこんなのはどうですか?」というおすすめの連鎖が始まる。このループに落ち込むと、我々の思考は急速に固定化されてしまうような気がする。広く様々な情報が得られるはずのインターネットなのだけれど、実際には極めて狭い範囲の情報しか見えなくなってしまうのだ。それはネットに仕組まれているメカニズムと人間の思考によって形成されるループによって引き起こされていることに注意しよう。

一方で、あれこれ商品を比較して、これと決めて購入した直後にもっと良い製品が見つかってがっくりした経験はないだろうか。私は何度もある。これは購入するというアクションによって前述のループが一旦切れたことにより、ロックがはずれて見える情報の幅が広がったことによるのではないかと思う。

テレビや新聞といったマスメディアは、必ずしも読み手の指向に完全にマッチした内容を提供する訳ではない。料理に関する情報もあれば国際情勢に関する情報もごった煮となって一緒に提供される。デパートに行けばお目当てのブランド品のほかにもいろんなブランドの商品を売っている。そういう情報はネットを使ったマーケティングの立場から見ると無駄以外の何物でもない。個人それぞれのニーズに合わせたオーダーメイドマーケテイングこそ時代の最先端ということになっている。でも、そういう古いタイプのメディアは余分な情報がある分、思考のロックもかかりにくいと言ってもいいだろう。新しいネットマーケティングって結局消費者の思考にロックをかけ、言ってみれば視野を極端に狭くしているだけのような気がしないでもない。その選択が最適かどうかとは関係なく、この商品しかないと思い込ませるだけのことではないかと。まあ、それが商売というものだと言われればそれまでではあるが。

こんな風に考えると、自分の興味とは関係ない情報、言ってみれば雑音にもっと注意を向けるべきではないかと思う。そういう情報にアンテナを張ることによって、安易な思考固定に陥ることを防げるのではないかと思うのだ。コロナ禍で急速に進んだIT化の中で、我々はそういう貴重な雑音をますますそぎ落としてしまいつつあるのかもしれない。でも、興味のないことにアンテナを張るってどうすればいいんだろう。





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