ハイテク天体望遠鏡について

 
  Vol.228
2019年12月23日
 
     
     

都内に引っ越してからずいぶんと活動が下火になった天体観測。我が家では恨めしそうに天体望遠鏡が埃をかぶってこちらを見ている。ずっと太陽の黒点観測は続けていたのだが、最近はそれも太陽活動が不活発になって、太陽表面に黒点が一個もない日が続いており、観察するにも観察する相手がなくなってしまっている。

そんな中で面白い製品の情報がインターネットで流れていたので紹介したいと思う。なんでもフランスのベンチャー企業が米国のSETI研究所などともアライアンスして開発した小型の望遠鏡で、35万円くらいするらしい。この望遠鏡は小型の光学系と日本製の超高感度の撮像素子が組み合わせてある。ユーザーは、その半導体素子で撮影された映像をスマホなどに表示して「観察」するというものらしい。半導体素子の感度がものすごく高いので、例えば都内のように天体観測の条件が悪い場所でもはっきりと天体を見ることができるという。感度を高めるために望遠鏡は見ている星の動きに合わせて自動的に追尾を行い、撮像センサにイメージを焼き付ける。追尾するといっても4秒間。最新テクノロジーを駆使することによって直径1メートルくらいの望遠鏡と同じくらいの性能を出せるらしい。ちなみに直径1メートルの望遠鏡なんてふつうは個人で持てるサイズではなく、ちょっとした天文台クラスのサイズになるだろう。なかなか面白い技術だなあと思った。もうちょっと安ければ一台欲しいくらいだ。

ところで、もしこの望遠鏡を使って星の観察をした時に果たして自分は「天体観測」をした気になれるだろうか。普通の望遠鏡ではレンズを通った「リアルな光」が網膜に当たって人は天体観測をした気持ちになる。でも、この装置では星からのリアルな光は網膜には届かない。途中で電気信号に変換されてから画面上でその対象は再構成される。これを天体観測といっていいのだろうか?直観的には、これは天体観測になると私は思う。

それでは、このアイデアをもっと発展させて次のような機械を作ったらどうだろうか。つまり、望遠鏡をユーザーが空の好きな方向に向けると、自動的にその望遠鏡で見えるはずの映像をハワイにあるすばる望遠鏡のライブラリーからインターネット経由で送る。ユーザーは、それをあたかも今観察したかのようにスマホで映像をみる。もう光を集める光学系さえいらない。これならどこにいても何メートルもある超大型望遠鏡でとらえた映像が見えるのだから素晴らしい商品になるような気がする。でも、これでは天体を観測したことにはならない気がする。なんか楽しくない。

この二つの機器で見た宇宙の相違は何だろうか。それはすばる望遠鏡で撮った映像が今のものでないことに問題があるのではないかと思った。つまりデータベースから送られてきたイメージは、それがすばるで撮ったものであろうがなかろうが、過去に既に観察されて記憶されていたデータであり、予想外のことは何も起こらない。それに対して高感度撮像素子で変換された映像は、電子処理によるわずかな遅れはあるものの今現在の星の映像であり、原理的にはその見ている最中に超新星爆発を起こして吹き飛んでしまう可能性を秘めている。実際には観察をしている最中にそんな極端な現象が起こる確率はすごく低いので、データベースの映像を表示するのと何ら変わりはないのだけれど。

「何かがリアルであること」

その本質がこの辺に見え隠れしているように思う。それはおそらく不確実性や揺らぎに関連している。そしてそれはただランダムに揺らいでいるというよりも(すばるで撮った写真を揺らしてみてもリアルには感じない)、何か予期せぬ変化のような心の動きとも関連している気がしてならない。人が抱いているイメージとのギャップを我々はリアルと感じるのかもしれない。

最近はAIやバーチャルリアリティのような先端技術があちこちで使われている。そういう技術におけるリアルって何だろう。





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