オーガニック・イノベーション

 
  Vol.227
2019年12月2日
 
     
     

最近はやりの技術開発手法にオープンイノベーションというのがある。シコシコと企業の中で基礎研究を積み重ねるよりも、社外のいろいろな企業に対して自社のニーズを開示し、マッチングしたスタートアップ企業との提携によって問題の解決を図る手法だ。新たなビジネスモデルを展開する場合にも、自社に不足する部分をオープンイノベーションによって補完することもあるだろう。最初は一部のコンサルティング会社がイノベーションの手法として提案していたようだが、今や大手の銀行なども自社のネットワークを生かして盛んに展開していることは周知のとおりである。基礎研究や長期にわたる研究をするほどの余裕がない当社のような企業においても、今後積極的に取り組んでいくべき選択肢の一つかもしれない。

そんな中で、当社はオープンイノベーションとはちょっと違うイノベーション手法としてオーガニック・イノベーションなるものを提案している。大体の人はこの言葉を聞くと、

「無農薬野菜でもはじめたの?」

といった反応を示す。オーガニックと聞けばふつうは農業関連という発想なのだろうが、そういう話では全くない。通常のオープンイノベーションにおけるビジネスマッチングの代わりに、シーズをお持ちの企業に我々の仕事の現場を見ていただいたり、研究所のツアーをやったりしている。見学していただいた内容が参加企業のシーズ技術やサービスにピタリとマッチすれば、それはそれですばらしいが、まあそういうことは稀である。その意味では、極めて効率の低い活動をやっているように見えるかもしれない。見学の後は蒲田で餃子懇親会までやる。なぜこんな手間のかかることをしているのかという疑問を持たれるのももっともなことだろう。

オープンイノベーションにおけるニーズとシーズのマッチングといえばすごく聞こえはいいのだが、実際にはニーズとシーズの間にはかならずスキマ(ギャップ)が存在することに我々の問題意識がある。 「当社にはこんなニーズがあります。」 といっても、本当のニーズはそこにはないかもしれない。頭で考えた課題と現場での本当の課題にずれがあることはよくあることだろう。また、

「当社にはこんな優れた技術があります。」

という主張の裏側には、「その優れた技術以外のことは当社はできません。」という事実が隠れているのだが、自社の技術を売り込みに来たスタートアップ企業の営業マンが、自分たちのできないことを明示的に言うことはまずないだろう。当たり前だ。

「自分たちの気づかないニーズ」や「主張するソリューションでは解決できないこと」をしっかり理解することは、実際の問題を解決する上では非常に重要なことではないかと思うのだ。そういうギャップを理解するために、我々は敢えて具体的なニーズを提示しないというアプローチをとっている。でも、

「問題を提示しなければいつになっても問題の解決などできないではないか。」

というお叱りが聞こえてくるようだ。世の中はすごい勢いで変化している。お天気任せの農耕作業のようなことをやっているヒマはない。うーん、それはそうなんだけどねえ。

そんなことを思いつつ朝食を食べながらテレビを見ていると、著名な米国の投資家のハワード・マークス氏のインタビューが目にとまった。私はあまりよく知らないのだが、その筋では相当有名な人らしい。インタビューの中でマークス氏は、ビジネスで一番大事なことは「自分のわからないことを理解すること」だというようなことを言っていて、まさに我が意を得たりという気がした。目まぐるしく変化する世の中で、未来を予測することは基本的にはできない。そんな時には、「何ができる」という認識より「何ができないか」という理解の方がはるかに大事というのが氏の主張だ。

氏のインタビューを読んで、我々のオーガニック・イノベーションも捨てたもんではないなと思い直した。でも、どうやったらこの活動を続けられるのだろうか。ニーズとシーズのスキマを埋めるアプローチ、マークス氏の本でも読んでみたら何かヒントがつかめるかもしれない。

いろいろごちゃごちゃ書いたけど、一番大切なのは技術を一生懸命提案してくださった企業の皆さんとのご縁を大切にしたいということのような気もする。オーガニック・イノベーション改め「縁結びイノベーション」にしようかな。



見学会の様子



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