テストパイロットについて

 
  Vol.226
2019年10月24日
 
     
     

航空機が新たに設計されると、問題点を抽出するためにテストパイロットがその飛行機に乗って様々な実験を行う。まだ実用に供されていない飛行機に乗るのだから予想もしなかったような事柄が起こるかもしれない。身の危険を感じるケースも少なくないはずだ。米国の初期の宇宙開発では、航空機のテストパイロットだった人が選抜されて宇宙飛行士になったケースも多い。人類史上初めて月に降り立ったアームストロング船長も元々はテストパイロットだった。訓練中のアームストロング船長が、操縦不能に陥った月着陸船から緊急脱出した事故などは、彼が超一流のテストパイロットだったからできたことに違いない。

イギリスにあるテストパイロットの養成学校では、テストパイロットに要求される資質として次のような項目が挙げられるという。

(1)問題に注意深く対処する能力を身につける。
(2)経験の幅を広げる。
(3)理論を理解する。
(4)テスト技術を学ぶ。
(5)報告のやり方を学ぶ。

まあ、じゃじゃ馬のような飛行機を沈着冷静に操縦して、その問題点を指摘しなければいけないのだから当然といえば当然の要求事項なのかもしれないのだが、この要求事項を見てユーザーエンジニアリング会社の技術者に求められる資質とも相通じるところがあるのではないかと気が付いた。

テストパイロットというのはメーカーの技術者ではないので、ものすごく細かく機械の中身を理解しておく必要はないかもしれないが、メーカーの技術者に匹敵するくらいの技術力を背景にしつつ、その機器の性能を批判的に評価する力が要求される。それは単にメカとしての機器の性能にとどまらず、操縦する人間とのインターフェース的な側面の評価も極めて重要になる。また、どのようにして機器をテストするかという方法論も重要だ。アプローチの仕方が異なれば、得られる応答も当然違ってくる。予想もしなかったような事柄が起きた場合には、それまでの多くの経験がものをいうだろう。確かに、ここに挙げた事柄は皆我々エンジニアに求められる資質とよく一致する。さらに、ここでいう「(5)報告のやり方を学ぶ」という項目はコミュニケーション能力と言い換えてもいいだろう。ユーザーエンジニアリングにおいてもそれが重要であることに異論はないだろう。

テストパイロットは飛行機を直接作ったりはしない。しかし彼らの責務は、ある意味メーカー以上に重いといってもいいだろう。飛行機の構造上あるいはソフトウエアの問題を未然に指摘し、重篤な事故が起こる前にそれを修正する。他方、我々も直接ものづくりをするわけではないが、メーカーとユーザーの間に立って問題点を洗い出し適切な対応をしていくことは、テストパイロットの仕事とそれほど大きく変わるものではないと思う。

会社では中期計画の策定にみな頭を絞っている。その中でいつもでてくる「コアコンピタンス」というキーワードがある。我々のコアコンピタンスは何かという問いに、テストパイロットを重ねてみてはどうだろう。もしかしたら何か見えてくるかもしれない。

 

参考文献:ブライアン・ジョンソン 『テストパイロット』 1997年、新潮文庫






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