脱・筋トレ思考

 
  Vol.224
2019年9月12日
 
     
     

元ラグビー日本代表の平尾剛氏の本の題名だ。この本に書いてあることは題名の通り、スポーツにおいてしばしば行われる筋トレはあまり効果がないということである。特殊な器具を使ったりダンベルを持ち上げたりして特定の筋肉を鍛えることを筋トレというが、さらに血流を制限して行う加圧トレーニングなんて言うのも一時流行った。自分では全くやったことはないけれど、スポーツをまじめにやっている人は多かれ少なかれ筋トレをやっているのではないかと思う。そんな筋トレをしない方がいいというのはどういうことなのだろう。

どんなスポーツであっても様々な動きを作り出すのは結局は筋肉であり、それぞれの技において重要な筋肉を選択的に鍛えることはとても合理的であるようにも思える。実際、著者の平尾先生は学生のころ体が小さかったこともあり、筋トレで鍛えて筋肉の質も量も増やそうとした。やればやるほど筋力や体重が増えていくことを視覚化できることから、結果がわかり易く、おのずとやりがいも湧いてくる。ところが筋トレで10キロも大きくなった体からは以前の様なキレが失われてしまい、思ったような動きが全くできなくなってしまった。逆にけがをしやすくなるともいう。

体というのは言うまでもなく筋肉や関節などが複雑に関連している。筋トレは、いわば複雑に絡み合って出来ている紐にナイフを入れ、切ってほどくようなものではないかと平尾先生はいう。一部の機能だけに注目して無理やり強くしても全体のパフォーマンスは上がらない。つまり筋トレは全体の協調性を無視したアプローチということだ。

それでは、そういう複雑な体にどう対処していくかということになると、絡み合った状況をそのまま受け入れて、コツコツと解けそうなところから取り組んでいくしかないという。そういうプロセスを通して人はカンやコツといった、言葉にしにくい力を身に付けて行く。本の中では、そうしたカンやコツについて細かく分析がされているが、ここではそこへは踏み込まない。

この本を読んでいて、ビジネスにおける「選択と集中」という戦略が思い浮かんだ。厳しい市場の中で生き残っていくためには、自社の最も力のある技術に選択的に資源を投資して自社のポジションをより良いものにしていく。まあ、当然といえば当然の作戦だろう。でも、そういうやり方ってちょっと筋トレに似てはいないだろうかと思ったのだ。企業も市場も実に様々な要素が複合的に絡み合って成り立っている。こんな状況で、ある一部にばかり選択的に力を入れることは、成果が目に見え易くわかり易い半面、全体のバランスを壊すことにもつながりかねないという指摘だ。全体協調性という視点を無視しては「選択と集中」は成り立たないような気がしてならない。

スポーツであっても基本的な筋力や体力がなければ戦い続けることはできないし、種目ごとによく使う筋肉や関節などもあるに違いないから、体全体の筋力をアップしたり、部分を意識して鍛えることも決して無駄ではない。しかし全体の協調性という視点がもっと注目されてもいいのだということだと思う。そういうことはビジネスにおいてもそのまま成り立つ気がしてならない。社内・外のいろんな人との関係性にもっと意識を向けていくと、もしかするとビジネスにおけるカンやコツが見えてくるのかもしれない。

 

平尾剛 『脱・筋トレ思考』 2019年、ミシマ社






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