2016年12月28日
Vol.193
 
     
オートファジーについて

今年の日本人ノーベル賞受賞に関連してオートファジーという言葉を聞いたことがあるかもしれない。受賞したのは大隅良典博士で、つい先日受賞されるところをテレビで拝見した。医学・生理学賞ということで、体に関する話だろうということはわかるのだが、オートファジーという言葉をこれまでに聞いたこともなく、何の事だかさっぱりわからない。そこで、折角日本の研究者がノーベル賞を受賞した研究テーマなのだからと思い、関連した入門書を読んでみた。

オートファジーとは何かというと、オート(自分)+ファジー(食べる)ということで、日本語では自食作用と訳されているらしい。自食などと言われると、共食いとかタコが自分の足を食べるとか、そういうことを思ってしまうのだが、そういう話とはちょっと違う。我々の体の何十兆個もの細胞の中にあるリソソームという器官が、古くなったほかの細胞の中の部品(たとえばミトコンドリアなど)を食べて分解し、再利用可能なアミノ酸を作り出すという作用をいうのだという。体の中にはマクロファージという外敵を食べてしまう細胞もあるが、それとは違って細胞の中の老廃物のお掃除をする。

オートファジーというのは、いつでもコンスタントに起こっているかというとそうではない。例えば生物が飢餓状態に陥った時、オートファジー作用が活発化され、体の中のたんぱく質のリサイクルが盛んに行われるようになるのだそうだ。外から栄養分があまり入ってこないから、リサイクルを行って緊急事態に対応するわけである。一晩くらい食事をしない程度でも、体内のオートファジーの活性度は上がるらしい。逆にオートファジーの機能が阻害されると、細胞の中にはだんだんゴミが溜まっていくようになって、いろいろな障害が起こるようになる。このようなプロセスが病気の原因になっていると思われるケースもわかってきて、今世界中で研究開発が行われているのだそうだ。

実は、ちょっと意外だったのだけれど、このオートファジーという作用は大隅先生が発見したわけではなく、以前から漠然と細胞の中のお掃除機能として知られていた。では、先生は何をしたかというと、オートファジーが「起きない」酵母菌を作り出したのだという。まず、酵母菌に突然変異誘発剤という薬品を作用させて、いろいろな突然変異株を作る。そして、それらを一つずつチェックしてオートファジーが起こっているかどうかを調べるのである。オートファジーが起こっているかどうかを調べる試薬でもあればいいのだろうけれど、当時は顕微鏡で細胞をいちいち観察したのだという。全く気の遠くなるような作業を5000回も繰り返して、その中から一つだけオートファジーの起こらない酵母菌を見つけたのだ。相当運が良かったと言っていいだろう。

普通に研究しようと思えば、オートファジーの起きている酵母菌をいろいろ観察して、その作用の本質を見極めようとするのだろうが、大隅博士は逆にオートファジーの起こらない酵母菌を探し求めた。言ってみれば逆向きに進んだ訳だが、要するにオートファジーが阻害された時に、どんなことが起こるかがわかれば、逆説的にオートファジーの働きがわかるという作戦を大隅博士はとったのだ。

うまくいった結果を後から眺めると、誰でもできそうな気もする。でも、うまくいかどうかもはっきりしない実験を5000回も繰り返すのは、並大抵の心構えではないに違いない。だからこそ、ノーベル賞級の研究成果なのだ。日々の仕事で、なかなかノーベル賞級というのは無理かもしれないが、それでも自分の仕事に信念を持って取り組みたいものだと思った。

 

 


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