2015年9月14日
Vol.177
 
     
意識について

脳の様々な働きについては、このコラムでもこれまでも色々と取り上げてきた。
脳に関する話題の中で最もチャレンジングなのが「意識」についてではないだろうか。我々が昼間活動しているときには、居眠りをしない限り(!)皆意識がある。その意味では最もありふれた対象であるにも関わらず、「いったい意識って何なの?」と問うた瞬間に何だかわからなくなってしまう。

そんな意識に関する本を読んだので少し紹介しようと思う。2人のイタリア人医師によって書かれた一般向けの本(1)だが、なかなか面白かった。詳細は本を読んでいただきたいのだが、一言でいうと意識というのは、

「意識をささえる基盤は、統合されかつ均質ではないシステムである。」

ということになるのだという。うーむ、分かったような分からないような表現ではある。
状況証拠を見てみると、脳の中の小脳や基底核と言われる場所は、独立した多くの均質なモジュールから成り立っているが、意識には関与しない。それに対して、視床−皮質系と呼ばれる場所は、左右に分かれた相互に繋がった密接なネットワークであり、意識にかかわっている。さらに、視床−皮質系では、外部刺激に対して複雑なネットワークにより作り出されたおびただしい数の異なる状況を区別し、その中から一つの選択がなされる。それが意識だというのだ。

ここで、恐ろしく複雑な構造と、そこから最終的には統一的な見解が導きだされるというところがミソらしい。例えば暗がりにいる時、「暗い」という感覚が意識にのぼるためには、それ以外の多数の選択肢、「明るい」、「赤い」、「黄色い」、「真っ暗」などの無数の選択肢の中から、「暗い」という選択肢が選ばれるプロセスが意識の本質なのだという。外からの刺激に対して意識が発生するのにかかる0.3秒程度の比較的長い時間は、この取捨選択に起因するらしい。

脳に限らず、あるシステムの構成要素のそれぞれが専門化し、差異が生まれれば生まれるほど、相互作用は難しくなり、それゆえ統合も困難になる。一方で、要素間の相互作用が活発であればあるほど、それぞれの要素は均一なふるまいをしがちである。脳は、この反発する力が奇跡的なバランスを保っているに違いないと主張する。

そういえば、あるプロジェクトを成功に導くためには、そこに参加する人々がそれぞれの分野の専門家であることが望ましい。その一方で、彼ら専門家の間の効率の良い意思疎通も重要だ。良いコミュニケーションをとり、あらゆる要素を考慮に入れて初めて全員が納得する仕事になるはずである。そこには、プロジェクトの意思が存在するとは言えないだろうか。逆に言えば、何も考えない同じような人ばかりの組織や、皆が勝手に動き回ってお互いのコミュニケーションがない組織には、組織全体の意識は存在しえないともいえるかもしれない。

企業が組織を変更したりして、新しいビジネス展開をすることがある。経営トップのメッセージが隅々までいきわたり、そこに向かって一丸となって邁進する。組織としては非常によろしい構図のような気もする。しかし、企業の意識とでもいえるような、有機的かつ柔軟に市場変化への適応性を持とうとしたとき、そうした均質な組織というのは実はあまり良くないのかもしれない。脳科学のキーワード「多様性」と「統合」、もしかするとこれからの社会や会社組織においても重要なメッセージを含んでいるような気がしてきた。

(1)参考文献:マッスィミーニ、トノーノ:意識はいつ生まれるのか、2015、亜紀書房

 

 

 


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