2015年8月13日
Vol.176
 
     
モールス通信の意味

インターネットが世界中をつなぎ、携帯電話やスカイプでどこでも誰とでも話ができるようになった現代に、モールス通信でコミュニケーションをしている一団がいると言ったら信じてもらえるだろうか。モールス信号なんて、タイタニック号の時代の通信手段で、一分間にいくら頑張っても100文字以上送るのは至難の業である。一文字を8ビットとして高々1キロバイト/分程度の通信速度では、殆ど寝ているのと同じだ。

プロの世界ではモールス信号が絶えてしまって久しいのだそうで、アマチュアの世界で何とか、その絶滅危惧種は生きながらえている。とはいっても最近のアマチュア無線業界ではモールス通信(業界ではCWと呼ぶ)は、結構人気が高く、雑誌などでも良く特集を組んでいるのを見かける。

モールス通信をやっていることを知っている人に、

「いったい何を交信するんですか?」

と聞かれることがある。そんなこと言われても困るんだけど、まあだいたいこんな感じである。

「こんにちは、信号良く聞こえますよ。名前は安部で住所は東京。また逢いましょう。」

以上で終わりである。何とも淡白な会話だと思うかもしれない。実際には英文字を使って交信するので

「GA UR SIG 599 BT NAME ABE QTH TOKYO BT HPE CU AGN 73」

となる。これではさっぱりわからないと思うので、もうちょっと翻訳すると、

「Good Afternoon, your SIGnal is 599, my NAME is ABE, address is Tokyo, I HoPE to see you Again, good bye」

少しは英語っぽくなったのでわかってもらえただろうか。ここで599というのは信号の強さのこと、QTHが住所。時々現れるBTは区切りを意味する。73はさようならという意味で、女性の時は88となる。いろいろとうるさいルールがあるのだ。

たったこんな内容を伝えるために、苦労して無線機にアンテナを張っているのかと言われそうだが、正直大した話をしているわけではない。コミュニケーションをするという意味においては、ほとんど意味なんかないのである。

こうなるとアマチュア無線でモールス通信なんかしたってしょうがないということになるのだが、やっている人はもちろんそんな風には思っていない。まずは、何千キロ、何万キロも離れた地点の間をわずかな数ワットの電波が伝わって、内容を確認し合ったという事実が大切だ。電波は直接アンテナからアンテナに伝搬したのではなく、上空にある電離層で何度も反射してやっと伝わったとすれば、それだけで感動ものである。

無線の世界にはひと月に一回くらいコンテストというのがある。これは、1日か2日の間にできるだけ多くの人と交信するという世界中の無線家のゲームなんだけど、そういう競技会に参加すると、入賞は無理でも世界のどのくらいの所まで自分の電波が飛ぶのかがわかる。北米は何とかなるんだけどアフリカは無理だ、みたいな感じである。送信機の出力を強くすればもちろん遠くまで電波は飛ぶようになるんだけど、それではつまらない。アンテナを工夫してみたり、交信のテクニックを磨いたりすることも大事なことだろう。電離層というのは太陽の影響も受けるので、何時頃に交信した方がいいのかとか、太陽の黒点の様子を観察することだって意味がある。

こんな風に考えると、たかがモールス通信と思っていたものが、宇宙規模の天文現象を相手に、スマホの電波だらけの雑音レベルぎりぎりの信号を精神を研ぎ澄ませて耳を傾ける、何ともダイナミックな活動ということになるのである。やってみませんか、モールス信号、楽しいよ。

 


著者がゲットした世界的なコンテストの賞状。
アジアでの参加者が他にいなかったらしく、たった6点しかとっていないが一位になった。(笑)

 

 


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