2015年1月7日
Vol.169
 
     
iPS細胞とガン細胞

新幹線に乗って出張する機会があったので、駅で適当に文庫本を買って読むことにした。動的平衡で有名な福岡伸一先生の「せいめいのはなし」という本をキヨスクで買った。以前にハードカバーとして出版されていた本が文庫化されたものだという。内容は4名の著名人とのインタビュー。もちろん、福岡先生は生物が専門なので、話題はやはり、そういう方向になる。その中で、受精卵が細胞分裂していく過程の話が語られていた。

なんでも細胞というのは、最初から何々細胞という風に決められているのではなくて、分裂する過程でなんとなく周りの細胞とのコミュニケーションの中で、

「俺は心臓になるから君は肝臓になれば?」

みたいな感じでだんだん分化していくのだという。本の中では、これを空気を読むと説明されていたが、なかなかわかりやすい表現だと思った。普通の細胞に対してガン細胞というのは、普通の細胞が行う周りとのコミュニケーションができなくなって勝手に細胞分裂を繰り返してしまう。これまで長い時間をかけて何とかこのガン細胞に正気を取り戻させようといろいろな研究が行われているが、今のところ成功していないらしい。本の中でも書いてあったが、社会でいろんな事件が起こる状況がガン細胞の増殖と似ているような気がしないでもない。

また最近注目を集めているiPS細胞やES細胞について、福岡先生は慎重な立場をとっている。つまり、細胞の働きというのは周りの細胞とのコミュニケーションによって役割が決まっていくのに、シャーレの中で希望する役目を果たす細胞を万能細胞から人工的に作るという考え方は、どうもしっくりこないという。言ってみればこういう万能細胞は、周りとコミュニケーションをしなくなったガン細胞と同じではないかという主張だ。詳しいことはわからないが、ノーベル賞などですごく期待されている技術だけにちょっと意外な感じがした。

細胞に限らず、人や物の絶対的な価値や働きというのは、案外それ自体でははっきりしないことが多い気はする。多くの人の意見や時代の流れの中で相対的に見て初めてその意味というのが浮き上がってくることは多い。周りをじっくり見つめてみること、それは自らを見つめることに他ならないのである。

参考文献 福岡伸一 せいめいのはなし、新潮文庫 2014

 

 

 


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