2013年7月31日
Vol.151
 
     
スナップショット的研究開発

何の因果か、いわゆる研究開発のような仕事を何十年もやってきた。新しいテーマを提案したり、困ったことがあるから手伝って欲しいと頼まれたり、上の人からネタが降ってきたりと、いろんなパターンで様々なテーマに関わってきた。そんな中で研究開発の最もオーソドックスなやり方は、@市場を調査して消費者のニーズをつかみ、Aそれに基づいて技術を調査(特許調査なんかも含まれる。)を行う。Bさらには技術を提供してくれるメーカーなんかも調べて、自分の位置づけを明確にしてテーマを立ち上げる。もちろん実用化までにかかる費用や人員の投入なども見積もる必要があるだろう。まさに「企画」という言葉がぴったりの仕事である。

だけど、個人的にはこういうパターンでテーマを立ち上げてうまくいった経験はほぼゼロである。もっというと、こういうやり方でテーマが走っているのを見ると、たぶんダメなんだろうなあとさえ思えてくる。方法論に何の異論もないのだけれど、とにかく、うまくいきそうな感じがしないのである。

話は変わるが、モノクロ写真の世界では、アンセル・アダムスという写真家が神様ということになっている。有名なヨセミテ国立公園の大判写真は、素人の私が見てもすごいなあと感じる作品である。このアンセル・アダムスが提唱した写真の撮り方に、「Pre-visualization」というのがある。Visualizationは視覚化だからPre-visualizationは、「前もって視覚化する」ということになる。つまり、シャッターを押して写真を撮るときに、現像やプリントなどのプロセスを頭の中にあらかじめ描くということが大切だという。どのくらいの光の量(ちょっと専門的には絞り)で撮影をすると、表現したい景色がちょうどいい感じのプリントに仕上がるかをイメージすることが大事という、至極ごもっともなお話である。

この手法(専門的にはゾーンシステムと呼ばれている。)って、最初に書いた典型的な研究開発方法によく似ているなあと思ったのだが、どうだろうか。研究開発を始めるその時に、その着地点までをしっかり見通すことと、シャッターを押す時にプリントされた写真をイメージすること、ほらね、そっくりである。でも、こういう研究開発はダメであると言っているということは、かのアンセル・アダムス先生の写真もダメということと同じということになりはしないか。これは困った。アダムスの写真がダメだとは思えない。

一方、アダムスのように大きなカメラを三脚に据えてじっくり露出を測りながら上品に写真を撮る方法の対極にあるのが、スナップショットである。小さなカメラを肩に下げて、感じるままに写真を撮る。露出もシャッタースピードもカメラ任せ、どんな写真が撮れているかは、写真ができてみないとわからない。こういう写真の撮り方で、名を馳せた写真家というのもたくさんいる。私自身は、偉大な写真家でもなんでもないが、どちらかというとスナップショット派に属すると思っている。写真は感覚で撮るものである。少なくともこっちのほうが楽しい。

ということで説明にも何にもなっていないが、研究開発もスナップショット的にやったほうがいいんじゃないかと思うのである。ごちゃごちゃ講釈をこねないで”これいいなあ“と思えるネタにとりあえず突進してみる。最後にお金が必要なところになったら、アダムス式に分析をして見せればいい。名付けてスナップショット的研究開発、どうだろう。作法としてのちゃんとした研究開発は理解した上で、アラーキーみたいな研究開発をやらかす。かなり恰好いい。

 

今回のコンテンツはBrooks Jansen氏のPodcast(http://daily.lenswork.com/podcast/)のGathering Assets を参考にしました。

 

 

 

 


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