2013年4月11日
Vol.148
 
     
スケッチをして思ったこと

スケッチをしている画家が手を伸ばして筆を持ち、長さを測っているところを見たことがあるかもしれない。あれは何をやっているかといえば、そのとおり長さを測っている訳で、要するに絵の中の形のバランスが悪くならないようにしている。例えばビルの高さと横幅の比率とか、そういうことを筆をものさしにして測っている。長さなんか測って絵を描いたら、自然な感じがなくなってつまらないと思うかも知れないが、画家の間ではこんなことは常識らしい。

最近めっきりスケッチに凝っている自分としては、当然スケッチを書くときには腕を伸ばして、画家よろしく長さを測りながら描いてみている。その結果つくづく思うことは、人の知覚のいい加減さだ。例えば手前から遠くに向かってビルが立っていたとしよう。ビルが遠くに行くにつれて小さく見えるとき、まあ手前の端の2割減くらいが最遠い端の高さかなあと思って、念のために鉛筆で長さを測ってみると、なんと手前の端の30%くらいしかないこともある。(3割減ではない6割減だ。念のため)ぱっと見た感じは、そんなに違わないのだけれど、実際はそうではない。でも、鉛筆物差しを信じてぐっとビルの形をゆがめて描いてスケッチを進めると、極端だと思った端の比率が、だんだんリアルな感じの絵に見えてくるから不思議だ。画家は、そういう人間の知覚のいい加減さをちゃんと分かっているから、物差しを使って長さを測っているのである。

我々は眼で見、耳で聞き、周りの世の中はこんなもんだと思っている。が、スケッチ一つとってもこれだけ人の知覚がいい加減だということは、周りの世界の実態は、我々の思っている世界とは相当違っていると思った方が良さそうだ。それも相当違っている。びっくりするくらい。

そう思って周りを見回してみたい。頼りになるのは物差しだけ。長さの物差しもあれば、時間の物差しもある。もう一回よおく見てみよう。何か違ってくるに違いない。間違いなく。

 

 

 


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