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2006年6月30日

Vol.053

     
眼の誕生
 
       
 

最近読んだ本の題名である。この本の主題は、カンブリア紀と呼ばれる約5億年前の時代に地球上の生物の進化が爆発的に進み種類が急に増えた理由についての議論である。化石などの調査によると、カンブリア紀以前の地球における生物は実に緩慢な進化しかしていなかったのに、約5億4000万年前ころの比較的短い時間に急にいろんな種類の生物が地上に現れたのだという。これをその業界ではカンブリア大爆発と呼ぶのだそうで、未だにその理由についての定説はないらしい。

学問的に真面目に細かい論証が続くのでちょっと眠くなるところもあったが、この本の著者は、カンブリア大爆発の引き金を引いたのは本の題名からわかるように、生物が眼という器官を進化させたことによると主張している。考古学的な調査によると、地球上で最初に眼を持ったのは、化石によく出てくる三葉虫なのだそうである。

ちなみに眼というのは生物的にはとても「コストのかかる」器官なのだそうで、その証拠に光の届かない洞窟の奥や深海に住む生物は、すぐに眼を退化させてしまうのだという。逆に言えば光の届くところの住んでいる動物にとって眼という器官は、高いコストをかけてもペイするくらいに有用な器官ということになる。

眼の誕生によって突然生物が進化を始めたのはなぜだろうか。本の議論を大胆にまとめると、光によりそれぞれの生物の間に強い相互作用が働きだしだしたということだろう。地球上のどこにいても降り注ぐ太陽の光は、地上のありとあらゆる物を照らし出す。眼が出来るまでは、その光は生物の表面で反射するだけでその光を受け入れる相手がなかったのである。それが眼の誕生によって、例えばまわりに恐ろしい捕食者が迫っている事がわかったり、逆においしい餌が回りにある事がわかったりするようになった。そのことによってそれぞれの生物は、自らを変えて状況に対応せざるを得なくなったのである。

この話を読んで、現代というのはカンブリア紀の生物進化の爆発的現象と良く似ていると思った。生物における眼の役割を果たしているのがもちろんインターネットである。光ファイバーを通して莫大な量の情報が行き来することによって、地球上の人々はより相互に関連するようになってきている。その結果、ものすごい勢いで新しいビジネスが勃興している。状況はカンブリア大爆発とそっくりである。この話が本当だとすると5億年前に起こった史上まれに見る大変化が5億年ぶりに今再びおこっているのかもしれない。

でも、それがわかったからといって今自分がどのような方向へ向かっていけばいいかということは、ちっともわからない。唯一言えることは、この大きな変化は一時的なものではないということだけである。だから情報の流れから身を遠ざけて嵐が過ぎるのを待ってもダメなのだ。自らも情報を発信し、外からの情報に耳を傾ける、そういうプロセスに自ら身をゆだねるしかない。もちろん、それは決してたやすいことではない。とてもコストのかかる活動なのである。

アンドリュー・パーカー著 渡辺・今西訳 「眼の誕生」−カンブリア紀の謎を解く 2006年、草思社

 

 

 

 
       
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