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2005年11月25日

Vol.028

     
情けは人のためならず
 
       
 

このことわざを聞いたことがあるかもしれない。私は、「人に情けをかけると甘やかすからよくない」という意味だと思っていた。ところが、これは間違いで、「人に情けをかけると、めぐりめぐって自分のためになる」というのが正しい意味だ。

そんなの常識という人もいるかもしれないが、それはおいておいて、このことわざの意味をもうちょっと考えてみたいと思う。なぜ人に情けをかけるとそれが自分のためになるのか。わかったようでよく分からない話だと思う。

仕事をしていて、いろんな話に出くわす。私は研究畑にずっといたので、新しい研究のテーマになりそうな話が目の前にごろごろしている。さて、どのテーマを研究テーマにするか。そんな時、長年研究をやっていると少しは鼻が利くようになって、「これはいける」とか「これはだめだなあ」と直感的に思うことがある。そんなとき、普通に考えればもちろん「これはいける」と思ったテーマを選択するだろう。当然だ。

もちろん私も以前はそう思っていた。が、最近その思いにちょっとした変化が生まれてきた。もしかしたら、「これはどうかなあ」と思うようなテーマこそ、最も美味しいテーマではないかと思うようになったのだ。

なぜか。それは、以下のような理由による。つまり、私が「これはいける」と思ったテーマというのは、それなりに良い理由がある。それは、私だけに分かる属性ではなく他の人にとっても同じように「これはいける」テーマである可能性が高い。とすれば、私が良いと思った時点で、既に良いのだから改善する余地が小さいのである。私の貢献によって改善があまり期待できないとすると、果たしてそのテーマが実現して製品となっても、見返りはあまり期待できないのである。世の中で既に多くの人が有望だといっているテーマなら、なおさらである。そんなテーマに乗っかっても、何も良いことなど有りはしない。当然だろう。

でも、だめなテーマとなるとこれはお話が全く逆である。なにせダメなテーマのだから直すところはいくらでもある。「だめだなあ」という点が既にみえているのだから、それを反対にしてやればいいのだ。そうすればそのテーマは良いものに転換される。そして、それは私の貢献によってなされたのだから、見返りも当然期待できるという寸法だ。

果たして、ここで私が議論した内容と「情けは人のためならず」ということわざのもともとの意味が、ピッタリ一致するかどうかは分からない。でも、ダメダメテーマを、苦笑いしながら受け入れ、担当者と一緒になって泥にまみれること、バカみたいに見えるかもしれないが実は、一番美味しい選択であることを知っている人は、それほど多くはいないのではなかろうか。

 
       
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