この状況下で、電圧をちょっとだけユラユラと変化させたらどうなるでしょう。ここでミソは“ちょっとだけ”というところです。「どのくらいをちょっとだけというのか」という問題は当然あるのですが、そこはまたもやとりあえずおいといて、とにかく“ちょっとだけ”Vを変化させることにします。
ここで知りたいことは、電圧をちょこっと変化したときに電流はどのくらい変化するかという比率です。電圧がちょこっとですから電流もちょこっとしか変化しません。その変化の比率を交流抵抗というのです。
こういうちまちました話は、微分という概念を使うと簡単に記述することができます。交流抵抗rは、単純な電圧と電流の比率ではなく微分になるのです。
r=dV/dI
線形素子というのは文字通り特性が直線ですので微分した値と電圧と電流の単純な比率が一致するのです。だから普通の抵抗器には直流抵抗と交流抵抗が同じになるのです。
話をダイオードに戻しましょう。動作点Qにおける交流抵抗rは
r=1/(dI/dV)
です。ここで電流の式においてVがVT(25mV)より十分大きいと仮定すると、式の中の1は無視でき、微分の結果から
r=1/I0/Vtexp(V/VT)=VT/I
となり、交流抵抗は動作点における電流の値に反比例することになります。例えばI=1mAとすると
r=25mV/1mA=25オーム
となり、小さい値になります。ここでは交流抵抗という言葉を使いましたが、「ちょこっと」した変化に注目するという意味において、こういう分析は「小信号解析」とも呼ばれます。 |